この原稿を皆さんが目にする頃、ボクは例年どおりシュンとしているはずなのです。というのは世間様の例外に漏れず「1年で最も売上が落ち込む時期」を過ごしているはずだから・・・・。当たり前ですが、レースやイベントがめっきりと減り、「さあ自転車に乗ろうか！」というバイク乗りが減れば店でモノを買おうか、という人も少なくなります。会社員時代とは違い、独立開業した今では「暇＝収入減」と死活問題です。心もなんだかどんよりと沈んだ気持ち、というのが正直なところなのです。
　、この連載を持ちかけていただいたのも1年前のこの時期でした。「人もうらやむような楽しく面白い生活論を書いていきましょう」という企画ながらも現実の自分は1年で一番落ち込んだ気分の真っ只中だったのです。それでも「やりましょう、やらせてください」といったのはやはり「沈んだ（？）気持ちながらも楽しく生活していますよ」という自信のようなものを皆さんに伝えられたらなあという気持ちからでした。

「安い」と「お金が掛からない」は別モノ
　これまでも「仕事はもちろん、よく遊んで楽しく生活しましょう」と書いてきました。しかし実際には仕事が時間を、遊びが財政を圧迫しがちなのは確かです。財布が寂しい状況に「よっしゃ遊ぶぞ！」という気にはならないのが当然です。しかし遊ぶためには、お金ばかりが必要なのでしょうか？　世間にはいろいろな「遊び」がありますが、バイクライドがボクの遊び（と生活）の中心になったのは実は「あまりお金がかからない」からかもしれません。
　確かにお客様に買っていただくバイクが決して「安い」とは思いません。しかし「安い」というのと「お金がかからない」とは別のモノです。たとえばバイクで考えれば高くても壊れにくいもの、不変なものであればお金がかからない、といえます。価格以上の満足感もあるはずです。　
　つまり必ずしも安いモノでは有りませんが安上がりに遊べるのが自転車遊びなのだと思います。　一度投資（購入）してしまえば、維持費がかかるわけではなく、消耗品分くらいです。乗って走る道路に対しても「重量税」や通行料を支払っているわけでもなく、1円も無くても国内のどこにでも行くことができる（じっとしていても食事はどうせするのでしょうから）、と考えると「安上がりな」という意味が判っていただけると思います。ボク自身、遊ぶたびにお金を使うものは苦手です。賭け事や、夜のピカピカした街で遊ぶことは苦手ですし、施設を使うためにお金が必要なほとんどの球技もあまりやりませんし、ゴルフもしたことが有りません。練習としてのゲレンデでのスキーはやりますがそれそのものが遊びではありません。税金を含めて何かとお金のかかるクルマやオートバイも遊びの中心にはなりませんでした。そう考えていくと最後に残った（？）自転車遊び、山遊びだけが財布の寂しい時期も変らず遊びたおせるものとして残ったのかもしれません。
　一頃、ボクが「お金を使った時期」に世界中のマウンテンバイクのラリーレイドに出ていたことがあります。エジプトに出たのを最初に、コルシカ、ケニア、カナリア諸島、タヒチ、そしてヨーロッパと場所もいろいろでそのためにかかる費用も結構なものでした。過去に6回参加したケニアラリーは一回に付き約40万円。もちろん1年に一回きりですが、その出費は安いものでは有りません。それでも毎年参加したのは、遊び（趣味）に使う数十万は何事にも代え難いということ、観光旅行などと比べて明らかにそれ以上の経験や価値がある、とわかっていたからです。
　自転車で参加するわずか40万のレースでは、サバンナでキリンの横をかすめ、インド洋の海水につかりながら全力で走ることができるのです。エジプトでは化石の転がる王家の谷を彷徨い、コルシカでは「初めて日本人に会った」と歓迎され、カナリア諸島では映画スターウォーズのロケに使われた「砂の惑星」を走るのです。もちろんそれらは「体験した」だけに留まらず全てが「経験」として活きる財産となっています。使ったお金と得たものと天秤にかければ価値のあるものであったことは明らか。、「カネを使って終わり」では無かったのです。事実、この経験が「オキドキなライフスタイル」を考え、実践する基盤になっていることは疑いの無い事実です。
　「遊びましょう！」は「お金を使いましょう」ではありません。全くお金が必要ではない、とは言いませんが、最小限の出費でも工夫をすれば、使った金額以上の満足感を得たり、割安に遊ぶことが可能なはずです。道具（自転車）を使って遊び、しかも遊んだ経験が糧となってライフスタイルをさらに豊かにする、それがオキドキライフスタイルの理想の形です。　そんな思いを込めて店では買って損をしないもの、満足の高いもの、そしてその道具を有効に活かす遊びの提案に尽くしています。