アメリカで、アフリカで出会ったオキドキな価値観 2003年6月号

 10代の頃,ボクは、「みんなそうしてるから」とか「流行ってるから」が何の疑いも無く判断基準になっていました。それがなんだか違うんちゃうかな、と思い始めたのはオートバイに乗り始め、そして自転車に乗るようになってからかもしれません。これまでに無かった自由な行動力が、自由に判断する新しい価値観を持つ考え方に影響したのかもしれません。
 ボクには何度か価値観の変化があったようです。一度目は仕事を休職してアメリカデホームステイした時。その頃雑誌やビデオに紹介されていたNORBA(*)のマンモス大会に憧れてどうしてもアメリカに行きたかったのです。
 アメリカでの生活が始まって間もないころ、ホームステイ先のペアレントはちょっとだけ贅沢なレストランに連れて行ってくれました。それまでにもこの国での食事の量の多さには喜びを感じていたのですが、若いボクがやっと食べれる量をホントにみんながたべてるのだろうか?と疑問もありました。案の定、ほとんどの人が外食の食事の多くを全部食べきれずに残しているように見えました。それまで「残さず食べること」ことが行儀の良いことだと教えられていましたから、「なんてヤツらだ!」と不愉快でした。いや残した客はともかく食べきれないような量の食事を出す店のほうが悪いのでしょうか?そのうちにボクのホストペアレントのおばさんがやはり食べきれない、ということになりました。しかし彼女はその小さなおかずの塊を箱に詰めてもらって大切に家に持ち帰ったのでした。なるほど、とボクの考え方は変わりました。様々なお客さんを相手に食事を提供するレストラン側の使命は「食事をして満足してもらうこと」ですから、空腹で帰ってもらうわけには行きません。食べ過ぎる必要はありませんが「ちょっと足りなかったかな」では満足も与えられない、すなわちサービス業としては不合格です。お客さんの満足に対して対価をいただく、それはお皿に乗った料理の量だけでなくテーブル係りの対応であったりその他のサービスも含めてのことなのだと思います。残してしまう罪悪はお客さんの責任であって、持ち帰ることも少なく給仕してもらうことも可能なはずです。コーヒーなどのお替わりが無料なことが多いのは同じ考えからでしょう。一杯いくら、ではなくコーヒーを飲む、行為(サービス)に対する価格なのだと思います。

予定通りは「予定をこなした」だけ
 さてその後,ボクはアフリカでもMTBレースやラリーに数多く出場してきました。もちろん正式な競技ですからルールがあり、スケジュールもきちんと公表され、参加する多くの選手は高いレベルの競技性やそして勝敗を求めて参加しています。いえ、正確にはそうだと思っていました。
 レースが始まるといくつもの予想外のハプニングが起りました。天候によってコースが水没したり、泊まるべき宿が工事中だったり(!)、バイクが行方不明なったりとコース変更や短縮はもちろん競技そのものが危ぶまれたり... それでもいろいろな手を打ってナントか競技を実行する主催者の手腕にも驚く物がありましたが、競技者側としてはとてもベストな状態で臨むという状況では有りません。ですからはじめの頃はボクもそんな状況に振り回され、疲れて不満を持っていました。
 ところが他の参加者からはそんな気配や言葉が聞かれないのです。トップを狙うヤツも、取材にきたクルー達もです。むしろ予定変更や予想外のことを楽しむように受け入れているのです。なるほど、とボクの考えは変わりました。全てが予定のとおりであってもそれは「予定をこなした」でしか有りません。予定はあくまで全体を構成する為の仮組みであって「楽しさ」とは実際にいま起っていることの中からなにを楽しむか、感じるかではないでしょうか?
 そう考えるようになってから何が起っても楽しくでしょうがなくなりました。何が起ってもなんとかなるし、なるようにしかならない、という自信もつきました。いまでも「行きたい」という人を連れて一緒に参加しますが、やはり最初は「よ、予定と違いますよね!?」と戸惑う彼らには「だからたのしいでしょ?」と笑って言っています。しかし最初は???と怪訝な表情の彼らも帰る頃には「楽しかった」と笑ってくれるようになるのです。
常識や決まった考え方だけでこれが正しい、正しくないと単純に判断することは簡単であってもそれを実行することにとても疲れてしまうことがあります。正しいこと、のはずなのに自分自身にストレス感じてしまうな時にはちょっと考え方そのものを見直してみると「あれっ!?」と楽になることがあるかもしれません。価値観をフレキシブルに、ひとつのことをいろいろな角度から見てみると「オキドキなもの」がたくさん見えてくるのでしょうか。うーん、もっと広い視野で柔らかな脳ミソになりましょうか!

*NORBA:アメリカで行われるマウンテンバイクの公式シリーズ戦 UCIでマウンテンバイク競技が統括される以前は世界的にも権威あるシリーズだった。今でも競技としての人気(とレベル)は高く、日本からスポット参戦する選手も多い。

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